平成11年の新春を迎え、お喜びを申し上げます。
平成10年の日本経済を振り返ってみますと、金融機関の経営に対する信頼の低下、雇用不安などが重なって、企業や家計のマインドが冷え込み、消費、設備投資、住宅投資といった最終需要が減少するなど、きわめて厳しい状況にありました。特に平成9年秋以来の中小企業に対する民間金融機関による貸し渋りは、依然としておさまっておらず、また、平成10年の中小企業の景況も、業況判断、売上、経常利益など各指数において昭和55年の調査開始以来最低の水準になるなど、中小企業を取り巻く状況はより一層厳しいものでした。
こうした状況に対し、政府としましては、様々な対策を講じてまいりました。まず、平成10年4月には、内需拡大策を講じ、国内需要の喚起を図るとともに、経済構造改革を強力に推進し、また、不良債権の処理を促進することを基本的な考え方とする「総合経済対策」を取りまとめました。中小企業庁としましても、中小企業信用保険法等における中小企業者の範囲を拡大する法改正を行うとともに、中小企業金融対策の充実をはじめとする事業規模において2兆円の対策を取りまとめました。
8月には、貸し渋りに万全の対策を講ずるべく、「中小企業等貸し渋り対策大綱」を閣議決定し、10月1日より、保証料率の引き下げ、保証要件の緩和を内容とする特別な保証制度を創設するとともに、中小企業信用保険法の改正による無担保保険及び特別小口保険における保険限度額の引き上げや、マル経融資の貸付対象拡充を行うなど、信用補完制度の拡充等により保証規模において40兆円を越える対策が可能となりました。
さらに、先の11月には、日本経済を一両年中のうちに回復軌道に乗せる第一歩として、7兆円の所得税減税を含む「緊急経済対策」が取りまとめられ、「中小企業等貸し渋り対策大綱」における対策を裏打ちする補正予算等が決定されました。
中小企業庁としましても、我が国の活力の源泉たる中小企業が、金融システムの不安定化、低迷する景気等の厳しい状況を克服し、21世紀の発展に向けた基盤作りを進める環境を整備すべく、平成11年度においては以下の対策を強力に推進します。
第一に、民間金融機関の不良債権処理が進む中での信用収縮を払拭し、「貸し渋り」により資金繰りが悪化している中小企業の資金調達の円滑化を図るため、昨年に引き続き、政府系金融機関等を通じた所要の措置を講じます。
第二に、新規創業・雇用促進支援として、コーディネーション・ネットワーク事業を行います。これは、ベンチャー等中小企業の方々の創意工夫が実現性を持つように、これらの方と様々なノウハウを持つ外部の経営資源を引き合わせるコーディネーター活動を支援するものです。また、ベンチャー等中小企業に対する技術開発支援の強化のため、昨年末の臨時国会で成立した新事業創出促進法において、「中小企業の新技術を利用した事業活動を促進するための措置」を内容とする制度(日本版SBIR)を創設しました。この他、中小企業大学校や各団体などにおける創業研修事業等を行います。こうした新規創業を支援することにより、経済活力が刺激され、雇用吸収の場が生まれると考えられます。
第三に、ものづくり技術は我が国製造業の根幹でありますので、この「ものづくり」を支える人材を確保・育成するため、「ものづくり協議会」が行うインターンシップ事業等を支援します。また、小規模製造業における熟練技術の維持・強化のためのものづくり技術強化事業等、ものづくり基盤強化のための支援を行います。
第四に、空洞化が深刻化している中心市街地等の中小小売商業について、その活性化のため、市町村の基本構想策定支援やTMOの計画策定支援、TMO等が実施するソフト・ハードが一体となった施設整備などの事業に対する支援を拡充します。また、中小卸売業に対して、物流効率化対策を中心とした支援を行います。
第五に、中小企業の経営革新と経営環境変化への対応促進として、業種一律にハード面への近代化投資を助成する中小企業近代化促進法等に替わり、個別企業等のソフト面を含めた経営革新を支援する枠組みに基づき、新商品・新技術開発や販路開拓、人材育成等を支援する事業を行います。また、コンピューター2000年問題については、システムエンジニアの派遣、設備貸与への支援や広報活動を行います。環境問題への対応としては、2000年からの容器包装リサイクル法の適用企業の拡大を受け、商工会・商工会議所を窓口とする小規模事業者とリサイクル協会との簡易契約システム等の構築や、中央会による中小企業組合に対する指導等を行います。
現在、私は私的研究会として「中小企業政策研究会」を開いていますが、先日その中間取りまとめを行いました。そこで描かれた21世紀の中小企業が担うべき役割をご紹介しますと、中小企業は市場で多数を占めるプレイヤーとして重要な存在であり、多様な財・サービスを提供するなどのイノベーションの担い手であり、また地域経済社会の発展の担い手であります。こうした「多様で活力ある独立した」中小企業の活動を支援していくため、新たな中小企業施策においては、中小企業が活躍しやすい競争条件の整備を行うとともに、意欲ある中小企業の自助努力を積極的に支援していく一方で、金融システム不安のような不測の事態に備えたセイフティネットの充実が必要です。
現下の厳しい状況や、近年中小企業を取り巻く、経済のグローバリズムの進展やそれに伴う下請分業構造の流動化、消費者の需要動向の変化、情報化の進展、また、規制緩和等の環境変化や経営の「ダウンサイジング」指向など、急激な変化を乗り越えて、皆様方が私どもの用意する施策なども十分に活用されつつ、日本の経済を引っ張っていく存在となられることを願って、私の新年の挨拶とさせていただきます。
本年が皆様にとってよい年となりますように。
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