経営革新と新規創業の時代へ

中小企業白書(平成11年版〜その(2))

 中小企業庁は先に「経営革新と新規創業の時代へ」を副題とする「平成11年版中小企業白書」を発表した。今月は先月号に引き続きそのポイントを掲載いたします。

中小企業の景気動向
・景気の山から景況は急速に低下しており、直近では在庫調整、人件費削減も進展している。又、業況の悪化に伴い設備投資も低迷しているが資金調達よりも業況が投資低迷の主因となっている。なお中小企業の雇用吸収力にもかげりが見られる。
(第1図、第2図)


第1図 景気の山から見た業況判断D.I.の推移

第2図 設備投資と業況判断D.I.の関係(中小製造業)


不況下の資金調達環境
・資金繰りは平成9年3月以降急速に悪化。金融機関の貸し出し姿勢も厳しくなり、大企業では貸出条件面で厳しくなったのに対し中小企業では借り入れ自体が困難になったケースが多い。こうした状況下で「貸し渋り対策」を受けて政府系中小機関の貸付と保証承諾額は、平成10年10−12月期には急増した。又、倒産は急速に減少しているが、金融機関の貸出姿勢は個別企業の業績、資金需要等が大きく影響しており、企業規模の影響は小さい。
(第3図〜第5図)

第3図 貸出姿勢で厳しくなった点

第4図 信用保証協会の保証業務状況

第5図 金融機関の貸出姿勢

中小企業をめぐる新たな課題
・情報化は規模が小さい企業ほど遅れている。しかし中小企業の中でも、増益企業はコンピュータの導入に積極的である。
・規制緩和については総じて肯定的で、前向きの対応を考えている企業が多い。特に業況の良い企業ほど規制緩和への対応には前向きの姿勢を示している。
(第6図)

第6図 開規制緩和全体への賛否

む す び

 中小企業庁設置から50年、中小企業基本法制定から30数年を経過し、所得水準の上昇と、それに伴う国民の価値観・ライフスタイルの変化、技術の進歩、経済活動のグローバル化等によって中小企業を取り巻く経済環境は、当時とは全く異なっている。そうした環境変化の中で、中小企業の現実の姿も「二重構造論」が日本経済の後進性の象徴として指摘した時代とは大きく変わってきた。 所得水準が低く、しかし、成長率が高い経済にあっては全体のパイが拡大するなか、その成果を広く分配するという発想が必要であった。だが、成熟経済では成長志向の企業、イノベーティブな企業が経済社会の活力の源泉とならざるを得ない。そのような中小企業がどれだけ生まれ、育つかが日本経済の将来を規定するといっても、言いすぎではない。中小企業のとらえ方も成長経済の時代とは変わらなければならない。
 ここ数年に限ってみても、規制緩和、金融システム改革、労働移動の増加など企業経営にとって、これまで前提とされてきた諸条件に、種々の変化が生じつつある。将来も、高齢化・少子化の急速な進行、情報処理・情報伝達の加速化、人的資本の質の重要性の高まりなど、確実に予想される環境変化がいくつか存在する。当然のことながら中小企業も変化への新たな対応を進められており、すでに、そうした取組を開始している中小企業もある。
 中小企業は生産性、賃金のみならず、収益性、成長性、イノベーションなど、さまざまな指標において極めて多様性があり、その中にも生産性の高い企業やイノベーションを盛んに行っている企業も目につく。変化が求められている時代であればこそ、リスクをともなうにしてもイノベーションへの積極的な取組は重要であるわけで、経営革新と新規創業の意義は大きい。
 他方、新規創業や初期の成長過程で、創業者あるいは企業が種々の困難に直面することが確認されたが、それを克服するには、資金面での環境整備とともに、情報提供・人材の紹介などさまざまな経営支援を行う主体の機能(「触媒機能」)の充実が欠かせない。 中小企業政策も新規創業や成長を志向する中小企業に焦点を当てて行くことが必要であろう。
 厳しい経済情勢が続いたが、底流には中小企業に変革を促す環境変化が進行している。
 このような状況は、旧態依然の経営を続けようとすれば「脅威」であるが、積極的に対応しようとする企業にとっては「チャンス」。そうした中小企業が日本経済の変革を促進する原動力である。新規創業や成長企業による雇用創出効果も高いし、既存中小企業の経営革新、新たな創業活動の活発化に対する期待は大きい。(完)




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