平成14年度版 |
「まちの起業家」の時代へ 〜誕生、成長発展と国民経済の活性化〜 |
第2部 誕生、発展・成長する存在としての中小企業 |
3 廃業・倒産とその教訓
(1)廃業率の動向と廃業に至る経路 実質GDP成長率と廃業率の間には、正の関係が見られる。(図1)このことは、実質GDP成長率の高い年(好況期)は、業況の良くない経営者に、事業からの撤退し再出発する機会を与えるという点で、新陳代謝を促すことを示している。 既存の事業を閉鎖する場合、雇用している従業員との関係、経営者自身の生きがい等も考慮要因に入ることや、引退を前提に廃業を考えている経営者にとっては、雇用者としての収入と事業者としての収入の比較は意味がないこと等、単なる経済的合理性以外の要素が重要となっている可能性が高い。 廃業の兆候を従業者伸び率及び粗付加価値伸び率で見てみると(図2)、(1)全体の推移を見た場合、廃業した事業所も、製造業全体の動きと似た動きを示す。つまり製造業全体の景況に左右される。(2)ただし廃業した事業所のパフォーマンスは、製造業全体の数字を下回ることが多く、廃業数年前からパフォーマンスが悪化していることが分かる。(3)さらに製造業全体との乖離に注目してみると、しばしば廃業1年前に、乖離が最も顕著に現れる傾向にある。
(2)マクロ経済と倒産の関係
実質GDP成長率と倒産件数の間には、負の関係が見られる。(図3)つまり、好況期ほど倒産件数が少ないことになる。また、実質GDP成長率を通じて廃業率、倒産件数を見てみると、実質GDP成長率と廃業率の間には正の関係が、実質GDP成長率と倒産件数の間には負の関係が見られ、廃業と倒産の発生のメカニズムが異なることが分かる。 (3)再起を果たせる環境整備の重要性
破産経験者が再び経営者として復帰する割合をアメリカと比較すれば、38%少ない。(図4)また、破産した経営者のうち37%は再起業を希望しているが、アメリカに比べ35.3%低い数値である。(図5) では、再起の意志ある経営者にとって、再起の阻害要因は、本人の意欲の問題や、破産企業の処理未了という物理的な問題を除くと、自己資金の工面や金融機関から資金の調達ができないという「資金面の問題」や、取引先との関係において信用が低下してしまうという「ビジネス上の信用の問題」等があげられる。(図6) 一方、失敗を乗り越え新たな起業に成功した経営者は、失敗の経験を活かして良好な経営を行っており、高いパフォーマンスを示している。(図7) 日本経済の活性化のためには、廃業・倒産を経験した経営者が再起できるような環境を整備することや、企業が経営の失敗を早期に是正し、再建を果たせるような環境づくりは喫緊の課題である。 4 中小企業金融の課題
(1)中小企業の資金調達の特性 中小企業の資金調達構造の特徴は、一般的には自己資本比率が低く、借入金に資金調達の多くを依存している。(図8) その資金調達の条件を見てみると、規模が小さくなるにつれて、借入金利は高くなっていることが解る。その一方で、中小企業でも低い金利で借りている企業も存在する。これは、自己資本比率等の財務状況が影響を与えていると考えられる。(図9) (2)金融機関の中小企業向け貸出しの変化とその原因
金融機関の中小企業向け貸出しの状況を見ると、バブル以降崩壊以降、長期的に貸出残高は減少傾向にある。この傾向は都市銀行ほどではないが、地方銀行にも同様の傾向がある。(図10) また、全国460の金融機関に調査したところ、不良債権比率が高い、あるいは自己資本比率が低い金融機関ほど、中小企業向け貸出伸び率が低くなっている。さらに、不良債権比率が中小企業向け貸出に与える影響は、都市銀行の方が地方銀行、信用金庫等に比べて大きい。(図11) つまり、外部環境の変化が中小企業の資金調達に与える影響は大きいということが言える。 5 中小企業の雇用創出・喪失
雇用の変動を中長期(91年〜99年)の雇用動向で見ると、新設事業所が雇用創出に大きな役割を果たしている。(図12) 存続事業所での雇用変動を従業者規模別に見ると、小規模事業所が雇用創出に大きな役割を果たしていることが分かる。(図13)
一方、業種別に雇用変動を見ると、短期では全ての業種で雇用量は減少しているが、中長期では小売業とサービス業は純増している。なお、雇用創出量はサービス業が特に大きく、喪失量は製造業が最も大きくなっている。(図14)
新設事業所の雇用創出、廃業事業所による雇用喪失と景気変動の関係を見ると、経済成長率の変動とは関係なく推移しており、景気変動の影響を受けにくく安定的であると言える。(図15)
6 まとめ
〜「まちの起業家」と経済活性化(欧米の教訓)〜 アメリカ、イギリス等では80年代以降、いわば「まちの起業家」が多数輩出し、自営業者の数は増加した。企業ひとつひとつのイノベーションと雇用へのインパクトはささやかであったが、全体として経済活性化に大きく寄与した。(図16) 日本経済が現代の状況を脱するためには、英米で起こったように中小企業者それぞれが主役として活躍し、その総和が大きな流れとなる。こうした過程が生まれることが課題であろう。 |
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