日本銀行秋田支店長として赴任してから2ヶ月が過ぎた。
支店に勤務するのは、札幌、大阪に次いで3度目だが、秋田は旅行で訪れたこともなく、私にとって全く初めての土地である。そんな訳で「若葉マーク」付きの私が秋田について語るのは聊か時期尚早の気もするのだが、今回本誌編集の方からの強いご要請もあり、早とちりで恥をかくのを覚悟のうえでお引き受けすることとした。
私は、稲作抜きに秋田を語ることはできないと思う。秋田のコメの競争力は間違いなく抜きん出ている。味が優れているうえに、冷夏でも安定した収量が確保できるのはまさに「鬼に金棒」だ。100年後には日本の人口が半分以下に減ると予測されている。当然コメの国内需要も比例して減ることになるが、その時に「日本の米どころ」として間違いなく残る実力があるのは、秋田と新潟ぐらいだろう。秋田の農業を担う方々には理不尽な減反圧力に屈せず、是非旨いコメを作り続けていただきたいと思う。
コメの競争力の強さは、秋田の「県民性」に影響しているとの見方が多い。古くからコメの強さは秋田の人たちに精神的な面でも経済的な面でもゆとりをもたらしてきたというのである。確かに、現在でも秋田には博学で教養に富み、グルメ志向の人が結構多い。
その一方で、商売のやり方は概して淡白である。「商品を並べて売れるまで待つ」という感じの店が多く、あからさまに値切る客もいない。互いに激しく競争するでもなく、かといって協調する訳でもない、いわば「一匹狼」のような経営スタイルが未だに多いように感じられる。
近年は量販店等で県外資本の進出が相次ぎ、寡占化が進みつつある。こうした大きな流れを独自の知恵で乗り切っている先と、消耗戦を余儀なくされている先とがあるようだ。
これとの関連で忘れてならないのは、秋田県の人口減少率が全国で最も大きいという事実である。これはすなわち、県内の顧客市場が急速に縮小を続けているということであり、県内企業は県外向けの売り上げを増やさないとジリ貧を余儀なくされる構図になっている。私には、清酒、きりたんぽ、稲庭うどん、等に代表される秋田の加工食品群は、いずれも美味であり、コメと同等ないしそれ以上の競争力があるように思える。これまで販路拡大は個々の企業努力で行われてきたように思うが、そろそろ、「ブランド・アキタ・ドット・コム」といった名の下に、県内企業が一丸となって取り組む時期に来ているのではなかろうか。
誤解のないように付け加えると、私は「秋田の県民性を変えよ」と主張しているわけではない。それどころか、せっかく築き上げた伝統を無理に変えようとすることは害の方が大きいと考えている。
上記の例で言えば、秋田県民全体が商売上手になる必要など毛頭ない。足りない人材がいるなら、少々お金を積んででも、県外から招聘すればよいのである。雇用創出も然り。県内で100社のベンチャーを軌道に乗せるより、100人規模の雇用主となれる経営者を数人探してくる方が現実的ではなかろうか。むしろ、そうした人たちと共存共栄していくことがこれからの秋田の課題だと、私は思う。
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