平成16年版
中小企業組合白書のポイント

 全国中小企業団体中央会では、毎年、全国の中小企業組合の動向と活動事例を紹介するため、組合関係各種資料を取りまとめた「中小企業組合白書」を編纂しております。このたび発行された本年版では、共同事業の新たな展開について解説するとともに、既存事業の再生に取り組む組合、新規事業の実施に取り組む組合など先進的な事例を数多く紹介した内容となっておりますので、そのポイントについてお知らせ致します。
共同事業の新たな展開
〜既存事業の再生と新規事業の実施〜
はじめに
 国内における市場の成熟化と消費の多様化、経済のグローバル化による国際的な競争、技術革新の急速な進展の中で、企業の競争関係は変化している。
 企業間の競争が激しくなる一方で、一企業では対応できない需要の変化、国際的な競争圧力、技術革新への対応のための企業間の連携、提携が企業規模の大小を問わず活発になっている。
市場の成熟化・消費の多様化は、商品の相互補完や生産品目の分担・専門化のための企業間連携を生み、価格を中心とした国際的な競争圧力は、一層のコスト削減のための連携を促進している。
 また、技術革新の急速な進展は、消費の多様化と相まって、技術・商品開発のスピードや費用・リスク負担の軽減のための連携が生まれている。
 中小企業の組合が行っている共同事業は、企業間連携の一つであり、その強化は時代の要請である。
 しかし、そのことは従来と同じ事業を従来と同じようにやれば良いということを意味しない。組合員の経営環境が変化しているのはもちろん、業態や事業内容、経営課題も変化しているのである。
 組合員の経営向上に役立つ組織として、組合に求められる機能を発揮するためには、既存事業の内容の変更、実施体制や実施方法の改革などによって既存の共同事業を再生すること、新規事業の実施によって組合員の新たな経営課題の解決に応えていくことが重要である。

I 組合設立の動向
 中小企業組合は、昭和50年代には年間で1,000組合を超える新規設立があった。60年代及び平成元年度以降は、年間800〜900台で推移している。10年度に792組合と800組合を割ったが、11年度以降は800台となっている(表-1)。

(表-1)組合種類別新設組合数の推移(6年間)
年度 10 11 12 13 14 15
事業協同組合 738 757 757 742 687 626
信用協同組合 2 - - 2 - -
協同組合連合会 6 18 12 12 8 6
企業組合 24 42 82 81 117 167
協業組合 6 12 7 5 6 12
商工組合 2 1 - 1 - 1
商店街振興組合 14 13 4 7 9 3
商店街振興組合連合会 - 2 - 1 1 1
792 845 862 851 828 816
資料出所:全国中央会設立動向調査(平成16年10月)

 新設組合を組合の種類別にみると、上記(表-1)の通り平成13年度までは事業協同組合が9割近くを占めていたが、近年は、企業組合の設立が多くなり、12年度及び13年度には新設組合の1割近くを占め、14年度には14%、15年度には20%を占めるに至っている。

II 事例にみる既存事業の再生と新規事業の実施
(1)既存事業の再生
1. 共同施設の建替え、改装、移転
 共同施設の建替えや改装、移転によって再生した事例である。共同店舗等の建替えなど、小売業の組合に多くみられる。
 「協同組合秋田市民市場」は、中心市街地の空洞化や施設の老朽化、後継者問題等に危機感を募らせた小売業者が、中央会、県、市等の支援を得ながら改装事業に取り組んだ(後掲:先進組合事例で紹介)。共同店舗である「東部商業開発事業協同組合」は、競合店の増加により年々売上げが減少していたが、店舗全体のレイアウト変更を伴う大がかりなリニューアルを実施するとともに、準核店舗にトイザラスを誘致して売上げを回復させた。「東京都古書籍商業協同組合」は、新会館を建設し、売上げが減少していた古書籍の交換会や一般ユーザー向け即売展を再活性化させた。「ギョルメクラブ事業協同組合」は、道の駅「紀伊長島マンボウ」のオープンを機に、客足が天候に左右される屋外テントから施設内の売場に移転し、安定的な集客が計れるようになった。

2. 事業システムの変更
 ITの活用や他団体との連携によって、仕入価格の低減やサービスの向上に結びつけた事例である。
 「土岐輸出陶磁器完成協同組合」は、従来陶磁器の輸出手続き、商品デザインなどの検査、承認事務などを行ってきたが、アジア諸国の台頭により貿易量が減少してきたことから、海外のバイヤーに向けたウェブサイトに商品を掲載し、新たな市場の開拓をすすめている。「ニューファッションジュエリー協同組合」は、従来単独で行っていた見本市を他の4団体合同で開催し、集客力と商談の機会の増大に結びつけた。「前橋薬業協同組合」は、過剰在庫になっている医薬品を他の組合員に販売するとともに、患者の希望する薬局に処方箋をFAXし、在庫を確認、来店時に即座に提供できる体制を作り、組合員の売上げが向上した。「鹿児島県エルピーガス保安情報センター協同組合」は、安全器具の期限管理など調査情報をデータベース化し、法的帳票を販売店に定期的に提供することにより、業務効率を向上させている。

3. 新製品開発
 新製品や統一ブランドの開発の事例が地場産業の組合で多くみられる。
 「岩手県木炭移出協同組合」は、炭の新たな用途として「ミニ園芸お手入れセット」、「癒しの炭家」などの生活関連商品を開発し、組合員の新商品開発への意欲を高めている。「愛媛県酒造協同組合」は、若者や家庭にも普及するリーズナブルで軽く上質な日本酒を開発し、県産シェアの回復を目指している。「寿海酒造協業組合」は、従来麦焼酎を中心に製造していたが、大手メーカーの壁が厚く苦戦を強いられていたため、地元産のことぶき芋を原料とした芋焼酎の製造に軸足を移し、全国展開することで売上げを増加させている。

4. 新市場開拓
 高齢者や障害者に市場ターゲットを絞り込み、商品やサービスを提供する事例である。
 「建友リフォーム協同組合」は、一般の住宅リフォームからバリアフリー化リフォームへと共同受注のターゲットを絞り込み、順調に売上げを伸ばしている。「宮古島マリンリゾート協同組合」は、バリアフリーダイビングを受け入れることにより、対外的な知名度をあげるとともに、行政をはじめ病院、ホテル等との連携も強化している。
(2)新規事業の実施
1. 環境、リサイクル
 環境問題に関する社会的関心の高まりや食品リサイクル法の施行に対応し、排出する廃棄物の処理やリサイクルを共同で行う事例である。
 「柏崎観光事業協同組合」は、旅館業等を営む組合員が排出する食用油や食品ゴミなどを収集し、組合工場で油は発電用に使用し、食品ゴミは肥料にして農家等に販売している。「佐渡緑のリサイクル協同組合」は、組合員から生じる木くず、製材くず、木材建築廃材等をチップやオガ粉にするリサイクル工場を設置している。「協同組合気仙ファーマシー」は、住宅患者から排出される注射針等の医療廃棄物が一般ゴミと一緒に廃棄されることによる「針刺し」等の事故を解消するため、組合で共同処理をしている。

2. ITの活用
 IT技術の活用によって新規事業を立ち上げた事例である。
 「栃木県米菓商工業協同組合」は、消費者との直接交流や最新情報を直接提供するため、インターネット上にショッピングサイトを開設した。「金沢市旅館ホテル協同組合」は、全国のインターネットユーザーが料金、空室状況、イベント情報、観光情報等を容易に探すことができ、同時に予約までできるシステム「金沢宿たいむ」を作り、組合員の売上げに貢献している。

3. 新技術・新製品開発
 これまで蓄積した技術やノウハウを活用することにより、新技術や新商品を開発している事例である。地場産業の組合にも多い。
 「栃木県石灰工業協同組合」は、地場の原料である石灰を利用した壁画、看板、フレスコ画キットなどを商品化している。「群馬石積協同組合」は、地元産の石を使った「巨石堰堤によるダムの堆砂防止・水質浄化システム」を開発し、受注に成功した。「高島晒協業組合」は、織物素材の加工技術を応用した商品を開発し、高級ブランド品に育て上げている。

4. 商品券の工夫と新たな施設活用
 共通商品券やスタンプの工夫、新たな施設を活用している商業関係組合の事例である。
 「秩父市商店連盟事業協同組合」は、組合員の販路拡大、商品券の利用促進を図るため、地元加盟店のみで利用できるコイン型商品券「秩父市共通商品券」を発行している。「協同組合安城サルビアスタンプ会」は、他では見られないイベントを開催し、スタンプの回収枚数の増加、スタンプ及び加盟店の認知度アップやスタンプに対する組合員の意識改革に成果をもたらしている。「風早の郷ふわり協同組合」は、大型店の進出や消費流出により、壊滅的な状況に陥っていた地元小売業者が設立し、「道の駅」の運営を行っている。
(3)まとめ
 既存事業の再生や新規事業の実施については、概ねの方向性はあるものの、実際にどのように行うかは、業種や組織形態によって必ずしも一様ではない。しかし、共通する要素として、いくつかのポイントがあげられる。
 一つは、共同事業を固定的にとらえないことである。共同事業は、組合員の何を支援するのか、そのために何が共同でできるかを考えることから生まれてくるのであり、あらかじめ決まった事業があるわけではない。組合員の経営の変化に応じ、必要な共同事業を不断に創造、改革していくことが重要である。
 二つは、共同事業の実施方法を工夫することである。共同事業には、さまざまな実施方法がある。共同事業を全て組合の内部で行う必要はなく、アウトソーシングや子会社を活用することもできる。外部機関との連携によって、組合の内部だけでは得られない知識やノウハウを利用することも重要である。また、情報技術など新しく生まれる事業手段を積極的に取り入れる必要がある。
 三つは、組合員参加である。組合の特色は、結局、出資者・経営者としての組合員と事業利用者としての組合員が一体であるところにある。組合員が自らに必要な事業を自らで行うのである。経営者として、どのような事業を行うかの決定に参加し、事業利用者として共同事業に参加するのである。
 組合員は、顧客として、組合が何をしてくれるのかを問うのではなく、組合のために何ができるのかを問う必要がある。それは、組合員が自らのために何ができるのかを問うことでもある。

III 組合事務局
 中小企業組合においては、組合員である理事はそれぞれの事業を営んでおり、組合事業に専念できない場合が多く、組合の事業の円滑な遂行には事務局の充実・強化が必要である。共同事業の企画、実行に携わる組合事務局の組織体制及び事業遂行の能力の如何が、組合事業の成果を左右するといっても過言ではない。
 商工中金組織金融部・財団法人商工総合研究所の「組合実態調査報告書」(2002年版)によると、独立した組合事務所を保有している組合は70%であり、保有形態は「自己所有」55.6%、「賃貸」44.4%となっている。また、常勤役員が「いる」組合は92.2%であり、1組合当たりの平均役職員数は7.24人である。内訳は、常勤役員1.17人、事務局職員2.88人、生産・販売職員2.16人、パート1.03人である。
 経営環境が大きく変化し、組合員のニーズに沿った共同事業を行うためには、事務局を核として組合員の英知を結集していくことが重要であり、今後の組合発展のためには組合事務局の一層の強化が重要である。

 本会では、中小企業組合白書を優良図書として推薦しております。この機会に組合役職員対象の各種講習会・研修会のテキスト等としてご活用下さるようご案内致します。
体裁 A4版 70頁
価格 1,200円(1,143円+消費税)
【申込み・問い合わせ】
本会調査広報課(Tel. 018-863-8701)

平成17年度 本会通常総会日程のお知らせ
日時平成17年5月19日(木)
場所秋田市:ホテルメトロポリタン秋田
*行事予定に組み入れて下さるようお願い致します。



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