改正組合法と組合会計基準について(5)

 組合会計基準においては、個別会計基準を設け、取扱いを定めています。2007年12月号から5回にわたり、改正組合法と組合会計基準について掲載致しましたが、今回はその最終回として、組合会計基準で示されている主な個別会計基準について掲載します。

時価会計の適用
 企業会計原則は、国際会計基準を参考にして大幅に改定がなされています。企業における利害関係者の意思決定に有用な情報提供することを目的に、資産及び負債の時価情報を貸借対照表に直接的に反映させるために時価会計を適用しており、取得原価主義を前提とした投資回収計算が行われていた従前の会計システムからは大きく変わる内容となっています。この国際会計基準は非営利的事業を展開する組織にも適用対象が拡がり、域内で限定的に事業を展開する協同組合等の組合会計にも導入されています。
 日本では、これまで資産や負債の貸借対照表上の評価額は、取得時の価額で計上する「取得原価主義会計」を採用していました。この取得原価主義会計は「客観性」、「確実性」があり、未実現利益を排除することができる長所を持っているものの物価変動が及ぼす諸々の影響が的確に反映されず、「含み益」や「含み損」が発生することから貸借対照表の資産価額と実態とが乖離することとなりました。
 このため時価会計では、資産及び負債の定義を厳密に行い、それらからはずれたものを純資産とし、資産及び負債の時価の変動差損益は原則として損益計算書に反映させることとしています。
金融資産
 有価証券については、組合として売買目的有価証券を取得することはできないので、満期保有目的の債権、関係先出資金、その他有価証券の3科目、このうち、その他有価証券については、期末に時価評価を行い、評価差額は税効果会計を適用したうえ原則として全部資本注入法で処理します。
事業資産
土地
1 土地の評価額が帳簿価額を下回る場合は、次のいずれかの方法により行います。
(1) 減損会計が適用される場合の評価減→減損会計
(2) 取得原価基準により作成された財産目録の注記に、時価評価正味財産の価額を記載する。脱退者持分払戻しに際しては、時価評価正味財産から持分額を算定します。
2 土地評価額が帳簿価額を上回る場合は、次のいずれかの方法により行います。
(1) 土地の評価差額のうち繰延税金負債を控除した金額を評価差額金として、純資産の部に表示します。
(2) 取得原価基準により財産目録を作成し、別に脱退者への持分払戻しに際して、時価評価財産目録を作成し、時価評価正味財産から持分額を算定します。
 時価評価財産目録は、税効果会計を行い繰延税金負債を計上し時価評価正味財産を求めます。

建物等
1 有形固定資産、無形固定資産、繰延資産は一定の償却を行い、法人税法に定める償却限度額以下の金額を償却した場合には、その不足額を償却不足額として計算します。
2 建物等の時価評価価額を下回ったときには、減損損失を処理する減損会計を行うことが求められており、回収可能価額により評価することになりますが、回収可能価額を算出する事務手続きの上から、組合の選択により、回収可能価額によらず、時価評価額によることは差し支えありません。建物等の償却を正常に行っている場合には、償却後の帳簿価額を当該資産の時価評価相当額としますが、建物等に償却不足額がある場合には帳簿価額から償却不足の累計額を控除した価額を当該資産の時価相当額とします。
※最高裁判所の判例では、組合脱退者の持分払戻しは、協同組合の事業の継続を前提とし、なるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額、すなわち時価により評価した組合財産によって算定されることとなっている。

◆減損会計
 減損会計とは、事業用土地(借地権を含む)、事業用建物、特許権、営業権等の有形、無形の固定資産の時価が帳簿価額を下回った場合、時価まで減損処理する会計をいい、収益性が当初の予想より低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で帳簿価額を回収可能額まで減額する手法で下方にのみ修正する点で時価会計と異なります
 減損損失を認識する場面としては、資産が生み出す営業損失が3期連続でマイナスになる場合、使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合、資産の市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合などである。しかし、税務上、固定資産について評価損による損金算入ができる場合は、災害による損傷など一定の場合に限定されていることから(令68三)、減損損失が会計上計上されても、その全部又は一部が税法上否認されるときがあるため注意が必要です。

◆キャッシュ・フロー計算書
 キャッシュ・フロー計算書は、組合の一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を報告するために作成する書面です。今日の発生主義会計においては、組合の経営成績及び財政状態を把握することはできても、その資金的な面について、これを明らかにすることは困難です。これは、損益計算書と貸借対照表からでは、一会計期間のキャッシュ・フローも、また、企業がどの活動からキャッシュ・フローを獲得し、これをどのような活動に投資したかなどもわからないためです。
 このため、組合の一会計期間における事業活動、設備等活動及び財務活動によるキャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフローに関する状況を明らかにし、組合が将来のキャッシュ・インフローを生み出す能力、債務や配当を支払う能力等の情報提供を可能とするために、キャッシュ・フロー計算書が作成されます。証券取引法の適用を受ける企業は、連結財務諸表の1つとして連結キャッシュ・フロー計算書を作成し、公表するよう義務づけられていますが、組合会計においては、業務執行方針を決定する理事会へ提出します。

◆税効果会計
 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関する金額を課税標準とする税金(以下、法人税等という。法人税等には、法人税のほか、都道府県民税、市町村民税及び利益に関する金額を課税標準とする事業税が含まれる。)の額を適切に期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等の額を合理的に対応させることを目的とする手続きです。
 税効果会計の適用により、会計上の利益と税金費用との対応関係の歪みが解消され、企業の当期利益の的確な把握が可能になります。
 税効果会計の適用については、金融商品取引法の適用を受ける公開会社と会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)は、強制適用されます。それ以外の会社については、税効果会計を強制する明確な規定はありません。繰延税金資産は、将来課税所得が発生することが見込めるなど、回収可能性があると判断できる組合だけが貸借対照表の資産の部に計上することが認められています。

◆退職給付会計
 退職給付会計は、退職給付の支給方法や退職給付の積立方法の違いに関係なく、一定の期間の労働対価等の事由に基づき、組合が将来負担すべき退職給付額のうち、期末までに発生している部分を退職給付に関する債務として財務諸表に計上するものです。退職給付会計を適用することにより、積み立てた資産の運用利回りの低下や資産の含み損等による年金資産の積立不足の状況が明らかになります。年金資産の積立不足は、将来的には年金給付コストの増加により財政状態を悪化させるおそれがあるためです。退職給付会計の状況は、財産目録に退職給与規程に基づく退職期末要支給額とそれに対応する退職給与引当金及び退職共済掛金等の状況を注記します。

◆持分会計
 会計上で用いる持分は、組合員が組合財産に対し共有部分として有する計算上の価額の意味です。組合財産の価額は、財産目録における資産の額から負債の額を控除した差引正味資産として計算されまするが、財産目録は取得原価基準で作成します。脱退者への持分払戻計算に際しては、財産目録を時価基準で作成します。

 ソフトウェア会計基準及びリース会計については、割愛させていただきます。



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